私どもの醬油をここまでにしてくれたのは、やはり京懐石の辻留の辻嘉一さんの一言が大きいと思います。会長の大久保文靖が、今から40年くらい前に辻留に食事に行き、持っていった「紫大尽」を、その場で恐る恐る辻さんに試していただいたのですが、眉間にしわを寄せ、目をつぶり味を確かめ、ぱっと目を見開いた後「松本にいつ帰る」「この醬油を送ってくれ」とおっしゃったのだそうです。その時、板場は凍りついたそうです。今まで使っていたものをある意味で否定されたわけですから。京料理を日本に広めた辻さんのこの一言は大きく、私どもの淡口醬油が、全国の料亭で認められるきっかけになったととても感謝しております。
淡口醬油は、そのものの味や香りだけでなく、かつお節などのだしの味や香りもひき立てるものでなくてはならない。
相手を立てて、かつ自らも寄りそうところが大切だと思います。大手のできない、醬油と味噌づくりは、発酵微生物や天気などこちらの都合で動かない自然と寄りそう仕事になります。
圧搾空気や加温など無理やりなことはせず、麹菌など発酵微生物の自然な働きを助けることにだけに人が専念する天然醸造です。ステンレスではなく漆を塗った木桶にはじまり、水にサンゴや杉を入れてろ過し、博物館的な諸味の櫂入れにこだわるのも発酵微生物のためです。原材料もすべて国産から吟味し集めます。日本の風土から生まれた味でありたいと願っているからです。
だから手間と時間が半端じゃない。再仕込みで作る甘露醬油や米を擦らずに作る玄米味噌は、3年かかります。「人間の限界を知り、自然の法則知り」とおっしゃる料理研究家の辰巳芳子さんが私どもの醬油をほめてくださるのも、辻さんが認
めてくださったのも、私ども、特に会長の自然とともにあるものづくりの姿勢のあらわれかなあと想像しております。
ぜひ、私どもの醬油と味噌、目をつぶって味わってください。
特に後味の切れを。
大久保勝美(大久保醸造店)
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